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新たな国民病?「機能性ディスペプシア」(その2)

新たな国民病?「機能性ディスペプシア」(その2)

前回、最近の日本人を取り巻く環境が胃酸過多になり易いことをお話ししましたが、今回はその胃酸過多が機能性ディスペプシアにどう繋がっていくのかをお話しさせて頂きたいと思います。

胃酸過多の方が胃カメラ検査を受けたときによく指摘される疾患に逆流性食道炎という病気があります。出過ぎた胃酸が食道内に流れ込む(逆流する)ことで、粘膜の表面が厚い粘液で被覆され、胃酸に抵抗性のある胃粘膜に比較し、酸に対する抵抗性が乏しい食道では、胃酸により粘膜が傷害されます。この状態が逆流性食道炎で、典型的な症状として「胸焼け」「呑酸」といった症状が出てきます。

上記のように出過ぎた胃酸は逆流すれば逆流性食道炎を起こしますが、逆流することなく十二指腸に流れるとどうなるでしょうか?十二指腸には胆汁と膵液というアルカリ性の消化液が出ていますので、多くの胃酸はこれにより中和され、酸の影響は減弱されています。しかし、胃酸過多状態ではこの中和が十分に行われず、十二指腸内の酸性度が上がることが予想されます。

ここで、ベルギーの研究者により2003年に発表された論文を紹介したいと思います。彼らは口から十二指腸に細い管を入れ、その管を通して十二指腸内に酸性の液体を流し込んだとき、胃の動きがどのように変化するかを調べました。すなわち胃酸過多状態を人工的に作り出し、その影響が胃にどのような変化をもたらすかを検討したのです。その結果を端的に表しているグラフを以下に引用させて頂きます。

このグラフから判るようにチューブから十二指腸内に生理食塩液を注入したとき(A)では胃内に入れた風船が十分に拡張していますが(胃内容量の増加)、酸性の液体を注入したとき(B)では胃内の風船は十分拡張していないことが判ります(胃内容量の減少)。風船を食事に置き換えて考えると、胃酸が多すぎない状態では食事が胃に入ると胃内容量がそれに応じて増加する適応性弛緩という変化が起こりますが、十二指腸に余分な酸が流れ込むとこの適応性弛緩が阻害され、「少し食べただけでお腹がいっぱいになり」「胃がもたれる」ことになります。この状態を機能性ディスペプシアと呼ぶわけです。前回の説明でお解りになられたと思いますが、日本人を取り巻く環境が胃酸過多になり易い状況ですから、近年、逆流性食道炎や機能性ディスペプシアが増え、機能性ディスペプシアが国民病?とも言える状況になっていることは至極当然と考えられます。

消化器内科 光永 篤