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新たな国民病?「機能性ディスペプシア」(その1)

日本生活習慣病予防協会が昨年11月に全国の消化器内科医331人に尋ねた「日本人の新たな国民病になり得る病気は何か?」とのアンケート調査で、一位になったのが機能性ディスペプシアで、機能性ディスペプシアが増えていると答えた医師は「とても増えている」「やや増えている」を合わせ87%にも及んだとのことです。

さて、機能性ディスペプシアとは一体どんな病気でしょうか?今回はこのテーマに関し2回に分けてお話しさせていただこうと思います。すでに掛かりつけの医師から同病名を告げられ、内服治療を受けられている方もいるかもしれませんが、実際のところどのような病気かよく分かっていない方も多いのではないでしょうか?

機能性ディスペプシアの患者の訴えで多いのが、「胃もたれ」や「少し食べただけでお腹がいっぱいになってしまう」という訴えで、このような訴えをもとに胃の検査を行っても、胃には何の異常も見つからず、結果としてそのうちの約半数の患者がこの病気と診断されるとのことです。この病気に対する認知が高まったことで、2013年からは保険診療の適応病名にもなっています。

では。潰瘍やがんなどの異常がないにも拘わらず、なぜ上記のような症状が出るのでしょうか?その辺りのことを考えてみたいと思います。

まず、ピロリ菌感染についてお話しします。ピロリ菌に関しては、胃の検査を受けられた方は事前に聞かれることが多いので大方知ってらっしゃる方が多いと思いますが、ピロリ菌感染が胃潰瘍や十二指腸潰瘍あるいは胃癌の原因になっていることが明らかにされ、日本でも2013年からピロリ菌の除菌治療が保険適応となり、積極的に治療を受けられる方が非常に多くなっています。このような中でピロリ菌感染者が減ってくると、最初からピロリ菌に感染していない人の割合も増えてきます。ピロリ菌感染で最も顕著な胃の変化は粘膜が薄くなる(萎縮性胃炎と呼ばれる)状態で、消化器官としての胃の本来の働きである胃酸を分泌する粘膜が薄くなることで、胃酸の分泌が悪くなります。したがって、ピロリ菌に感染している人が多かった時期には胃酸過多になる人の割合も少なかったと言えます。一方、胃酸の分泌が多くなる食事があります。それは欧米人が日常的に食べているような食事で、以前の日本人はそのような食習慣はありませんでしたが、食の欧米化が進み、日本人も欧米人と同じようなものを食することが多くなってきました。一般に欧米の食事では消化のために胃酸を多く必要とするため、胃酸過多になり易い傾向があります。以上のことから、ピロリ菌感染者が減って、食事が欧米化したことで現在の日本人は胃酸過多になり易い環境にあることが判ります。

今回のお話はここまでで、次回、胃酸過多と機能性ディスペプシアがどう関連するかについてお話ししたいと思います。

消化器内科 光永 篤