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習慣を変えられるのは習慣

私たちの祖先は、飢えと闘いながら生き延びてきました。次はいつ食べられるかわからない状況では、目の前の食料を食べられるだけ食べることが生き残りに必要だったはずです。海から陸に移った生物にとって塩の成分であるナトリウムを十分にとることは生存に不可欠ですが、自然食品にカリウムは豊富に含まれていても、ナトリウムは少ないので、私たちの脳は塩を美味しく感じ、カリウムは欲しがらないようです。狩猟採集の時代には、糖質を多く摂る方が生存に適していたので脳は甘いものを欲しがるように進化したようです。コレステロールや尿酸も身体に必要な構成要素ですが、それらの材料となる食品を十分に食べられるようになったのは最近です。製塩法と製糖法を発明し、十分な食料が食べられるようになった現在も、人類の生き残りをかけて進化してきた感覚は変わらないので、私たちは塩、砂糖やコレステロール、尿酸の材料になるプリン体が多く含まれる食品を欲しがるようです。

そんな時代に健診を受けて、血圧、血糖、コレステロールや尿酸が高いことがわかり、食事療法が必要と言われても簡単にできないのは、むしろ当然です。

さてどうするかですが、難しいのは承知の上で、できそうなことを、ひとつかふたつ見つけて習慣化してはどうでしょうか。例えば、食事の最初に青菜サラダを15分かけて食べる(腎機能に問題がある方は医療者と相談してからにしてください)、せんべいやポテトチップは、袋からではなく食べる分だけ小分けにして袋は遠くに置く、アルコールはできるだけゆっくり飲み、チェーサーに水を用意し交互に飲む、毎日30分多く歩く、駅で上りエスカレータに乗らない、などなど、できそうなことを探してみてください。

哲学者の三木清は、「習慣を変えることができるのは、理性ではなく習慣である」という意味のことを述べています。好ましくない習慣を変えることを目指すよりは、まずはできそうな良い習慣を実践してはどうでしょうか。

クリニック所長  久代 登志男(循環器内科)