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便中微生物薬が実用化!

前回、腸内細菌の話題について書かせて頂きましたが、それに関連して便中微生物を治療に応用する医薬品が登場したので、その話題を提供致します。

その薬品とは、クロストリジオイデス・ディフィシル感染症(clostridioides difficile infection : CDI)の再発予防のための経口薬Vowstで、米国FDAにより承認されました。

CDIは寛解再燃を繰り返すことの多い大腸感染症で、クロストリジオイデス・ディフィシルという名の細菌が分泌する毒素が原因で偽膜性大腸炎という病態により下痢・腹痛・発熱を来たし、時に死に至ることもある感染症です。

腸内細菌の話題でも触れましたが、人の腸内には数百万種もの細菌がいて、普段はこれらの細菌がお互いに影響し合って均衡を保っていますが、抗生剤の投与などによって、これら細菌の均衡が乱れるとC.difficileが増殖し、人体にとって好ましくない腸内環境を形成することでCDIを発症します。

CDIは繰り返すことで再発のリスクが高まり、抗菌薬での治療が徐々に困難となりますが、このような時に健常人の糞便中に含まれる細菌群を患者に移植(便移植)することで、C.difficileの繁殖を抑え、患者の腸内環境を健常な状態に近づけることで治癒が期待できるようになります。

Vowstは米国のバイオテクノロジー企業であるSeres Therapeutics社が開発した人の糞便から集めた生きた細菌を含むカプセル剤で、1日1回4カプセルを3日間連続して服用しますが、薬剤開発段階の治験では、Vowst服用によりCDIの再発予防効果が実証されています。

さて、糞便から作った薬の気になるお値段は?というと3日間の服用で1万7,500ドル(約240万円)とされ、ただ捨てられるだけの糞便も薬となるにはかなりの時間と労力ならびに技術を要するということがうかがわれます。

消化器内科 光永 篤